· 

ある二人の婚活物語(STORY)。─ 第1章 第4節 ─

 

 ───カフェで純子と長いこと話し込んでいたので、帰りが遅くなってしまった。家の前まで辿り着き、腕時計に目をやると時刻は夜8時半を過ぎたところだった。ガチャリ。鍵を差して重いドアを開けると、ちょうど玄関で靴を揃えていた母と鉢合わせる。「あら敬子、遅かったのね。夜ご飯できてるわよ?」私を見るなり、見上げる形で母が言う。確かにリビングのある方向からは食欲のそそる匂いが漂ってきていた。

 

 私は生まれてから29年間、ずっと実家住まいである。一人暮らしに憧れた時期もあったが、仕事でヘトヘトになって帰ってきても温かいご飯があるという生活を手放せず、現在に至っている。結婚相手が欲しいのならばもっと自立しなければいけないとは思うのだが…。文句1つ言わず住まわせてくれる母や父には感謝している。

 

 夕食をとった後は自室に戻り、ローテーブルの上にノートパソコンを広げて習慣であるネットサーフィンをすることにした。化粧品のショッピングサイトを覗いていると、サイト内の右側に表示された縦長の広告が目に留まる。その広告では真っ白なウェディングドレスを着た女性と同じく白いスーツを着た男性が仲良さげに腕を組み、幸せそうに微笑んでおり、ピンクと白の飾り文字で大きく「○○結婚相談所」と表記されていた。

 

 「あ、そういえば・・・」私は先ほどカフェで純子が話していた「結婚相談所」についての話を思い出した。今まで自分では考えたこともなかった選択肢があることに気付き、少し興味を持ったので帰宅したら詳しく調べてみようと思っていたのだが、母が作った夕食に満足してすっかり忘れてしまっていた。今見ている広告は関東圏のものなので、私の住んでいる札幌は対象ではない。では近場にはどんな所があるのだろうか?情報を探るべく、「結婚相談所 札幌」というワードで検索するとある1つのサイトを見つけた。

 

「フリースタイル結婚相談所・・・。」

 

 そのタイトルが大きく表示されたサイト内を少しずつ見ていくと、相談所のシステム・料金・代表者のプロフィールなどが分かりやすく記載されており、文面などから信頼できそうな印象を受けたので、徐々に担当の人と実際に会って話をしてみたいという気持ちが湧いてきた。少し迷ったが思い切って問い合わせフォームからメールを送信してみることにした。メールにはホームページを見て内容に興味を持ったこと、詳しい話を聞きたい旨を綴り送信すると、30分程して相談所の方から返信が届いた。

 

「宮下 敬子 様 この度はお問い合わせいただき有難うございます。当相談所に興味を持っていただき大変嬉しく思います。よろしければシステムについてご紹介させていただきますので、ご都合の良い日時をお知らせいただけますでしょうか。」

 

 そうだ、明後日はちょうど早上がりの日で普段より30分早く仕事が終わる日だ。私は明後日の夕方6時に予約を入れることにし、担当者の佐藤さんという男性から結婚相談所について教えてもらうことにした。ホームページを読んだだけでは分からないことなど、色々と質問してみよう。

 

 この所、恋人を見つけるために私が起こすアクションといえば合コンへ行くこと位だったのだが、たった今自分の意思で未来へ向けての行動が出来たことに少し嬉しくなった。周囲から慎重派と言われ、あれこれ思い悩んでしまい直ぐに行動に移せない自分が今日は何故かすんなりと会ったこともない人と話をする約束まで取り付けることができた。私もなかなかやれば出来るじゃない。そんな自分自身に対しての満足感と、結婚に向けて小さくはあるが一歩踏み出せたという安堵感で、その日は深い眠りにつくことが出来た。

 

─ 第1章 第4節 ─