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ある二人の婚活物語(STORY)。─ 第2章 第1節 ─

 

 あれ、このビルだったんだ。これから訪問する結婚相談所のフロアを確かめながら、インフォメーションボードに見慣れた店名を見つけ、敬子はつぶやいた。このビルの地下1階で営業している少しレトロな喫茶店を、よく利用していたのだった。知っている喫茶店が入居しているビルだと判り、少しだけ緊張がほぐれた敬子は、まだ約束の時間には少し早いのだが、二基とも上層階に留まっているエレベータの上りボタンを押した。

 

 先日、純子に教えてもらった「結婚相談所」というものが、妙に気になり調べてみたのだが、仲人が手伝ってくれる結婚相談所を利用する方は意外と多いらしい。かなりの確率で結婚に至っているという事実にも正直驚かされた。これまで結婚相談所や、お見合いというものに対してはそれほど良い印象を持ってはいなかったのだが、どうやら最近のお見合いは、新しい婚活スタイルとして、若い世代を中心に見直され始めているようだ。

 

 ウィーン。指定フロアに着き扉が静かに開いた。

 

 同じフロアには数社のオフィスが入居しているようで、会社名が記載された無機質なプレートが各入口に並んでいる。これから話を聞きに行く結婚相談所を利用するかどうかは、説明を受けてからにするつもりなのだが、電話で話した感じでは自分との相性が良さそうな相談所に思えた。ホームページでは会員のプライバシーに配慮したプライベートサロン型の結婚相談所とあったが、実際同じフロアに用がない限り、特段に人の出入りはないらしい、知り合いに合う確率もほとんど無さそうだ。

 

 コン、コン、コンッ。「ごめんください・・」予約の時間には少し早かったのだが、私はフリースタイル結婚相談所のドアをゆっくり開いた。案内された応接スペースで待っていると、暫くして担当者らしい男性が出てきた。「初めまして、カウンセラーの佐藤です。」と笑顔で話しかけてきた。緊張がほぐれる程度の軽い雑談を交わした後、「最近ではお見合いという昔ながらのスタイルが、また見直されて始めているようで、私たちのような仲人が双方を引き合わせる結婚相談所を利用される方が増えているんです」と、カウンセラーの男性は、近頃の婚活状況について話し始めた。


 「ところで宮下様は、何が結婚する一番の近道だとお考えですか?」との質問に、私は言葉を詰まらせていると、「それは、お見合いなどを通じて実際にたくさんの方とお会い頂くことなんです。」とカウンセラーの男性は教えてくれた。ひと通り相談所のシステムや料金の説明を受けたあと、自分の思い描く結婚観などを伝え、「詳しい説明ありがとうございました。一度家に帰ってゆっくりと考えてみます。」と礼を言い相談所をあとにした。

 

 1階のエレベーターホールに着くと「そうだ、純子に報告しておこう」と思い、バッグからスマホを取り出した。簡単な文章とスタンプで連絡を済ませると、純子とのやり取りが長くなることを予想して、地下にあるいつもの喫茶店でお茶でも飲んで行くことにした。地下へと降りるボタンを押しエレベーターを待っていると、上層階へ上がって行ったもう一基が、9階で止まるのが見えた。

 

 ───ウィーン。指定フロアに着き静かに開く扉。

 コン、コン、コンッ。フロアに響くノック音。「あの、ごめんください。予約している田川なんですが。」僕はフリースタイル結婚相談所のドアを開け、恐る恐るオフィスの中へ声をかけた。「お待ちしておりました、田川様ですね。カウンセラーの佐藤と申します。どうぞ、こちらの席へお掛けください。」

 

─ 第2章 第1節 ─