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ある二人の婚活物語(STORY)。─ 第2章 第2節 ─

 

 ───私が初めて結婚相談所へ足を運んでから、約二週間が経とうとしている。

 

「フリースタイル結婚相談所」の担当者である佐藤さんに教えてもらった通り、私は相談所に登録している沢山の人達のプロフィールを見ることができるというホームページに目を通していた。このホームページを通じて、自分と同じように結婚相手を探している異性と出会うことができるそうだ。

 

 女性会員向けの画面にはズラリと男性の顔写真が並んでいる。こうして見ると人間というものは、実に千差万別だなぁと思う。写真の写り方にもそれぞれ個性が出ており、歯を見せて太陽のように眩しい笑顔を作る20代中盤くらいであろう若い男性がいたかと思えば、腕を組み重厚な微笑みが印象的な50代くらいの会社役員風の男性がいるなど、ただ眺めているだけでも面白い。

 

 私がこのホームページを見るのは今日が初めてではない。何日か前から毎日、暇があれば覗くようにしている。プロフィール内容を見る中で、気になる男性がいれば積極的に「会いたい」という意思表示である「申し込みボタン」を押してみるよう、佐藤さんに言われていたのだ。その言葉に背中を押され、普段から極度に奥手である私も勇気を振り絞って実は2度ほど、実際に男性と会う機会を持つことができた。

 

 ただ、それが成功したかといえば、全くしていない。お見合いは結婚相談所を通じてという形なので、事前にいろいろとアドバイスを受けたり、相談にのってもらうことができる。しかし、実際に男性と会ってみると「結婚」を意識していると最初からわかっているせいなのか、まだ慣れていないせいなのか、緊張してほとんど相手の男性と話すことができなかったのだ。そして恐らくそれが原因だろう、相手の男性2人に後日断りの連絡を入れられてしまった。断られて次のデートにも進めないというのはショックではあるが、気持ちを切り替えて次の男性を探している。

 

 また、3人ほど向こうから私の事を「会いたい女性」として指名してくれた男性がいたようだが、プロフィールを見ると50代後半であったり、離婚歴が多かったりと、結婚相手の理想とは異なる相手だったのでお断りさせていただいた。こういった場合は担当のカウンセラーから相手方に伝えてもらうことができるので、気まずい思いをしなくて良いのは助かる。

 

 それからというものまだ何も進展はない。とりあえず寝る前にもう1度見ておこう・・・。そう決めて再びパソコン画面を見つめていたのだが、仕事で疲れていたこともあり、いつのまにか眠ってしまった。

 

 ───僕が初めて結婚相談所へ足を運んでから、約二週間が経とうとしている。

 

 結婚相談所に入会し、会員プロフィールを見ることが出来る画面からお見合いを申込み、実際にお見合いまで漕ぎ着けたのが現時点で3件、つまり僕は3人の女性と実際に会って話すことができたのだ。

 

 僕、田川賢司がその中で1番気になった女性は、最後に会った3人目の女性だったのだが、結論からいうと上手くいかなかった。しかも僕の方から断りの連絡を入れた。その女性は決して性格が悪かったとか、清潔感が無かったとなどということは一切ない。むしろ正反対の素敵な女性だったのだが、それが返って眩しすぎたというか、僕なんかにはもったいない、僕なんかよりもっと素敵な男性が彼女には相応しいだろうという卑屈な考えに囚われてしまい、耐えきれずお断りしてしまったのだ。端から見れば皆口を揃えて「何やってるんだおまえは!」と言うだろう。しかし、何かが違ったのだ。

 

 婚活を始めてから気がついたことは、相手がいくら素敵だからといって結婚話が進むものではないということだ。一緒に居て違和感がなく、お互いに心地よくいられる関係というのが重要なことなのだと気付かされた。婚活している全員がそう考えているという訳ではないが、少なくとも僕にとってはそうだ。わかったようなことを言ってしまったが、まだそんな存在の女性には出会えていない現状に早くも焦りを感じている。

 

「本当にこんなことで運命の結婚相手に出会えるのかなぁ」

 

 つい愚痴をこぼしながら、缶ビールを片手に画面をスクロールし続ける。するとある1人の女性の写真に目がとまった。「宮下敬子さん・・・か。」肩までの黒髪ヘアーを上品におろし、にっこりと微笑むその女性をみて僕はなんだか懐かしいような、不思議な感覚に陥った。その笑顔と醸し出す雰囲気がとても好印象だったので、申し込みボタンを押そうか、どうしようか考えた。このボタンを押せば女性と会う意思があるとみなされ、結婚相談所の担当者に連絡がいく仕組みになっている。

 

 優柔不断な僕は迷ったが、ほろ酔い気分だったこともあり、申し込みボタンを勢いよくマウスでクリックした。

 

─ 第2章 第2節 ─