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ある二人の婚活物語(STORY)。─ 第2章 第3節 ─

 

 結婚相談所に「あなたとお会いしてみたいという方がいます」という連絡をもらってから三日後の今日、仕事を終えた後にホテルのラウンジで男性と待ち合わせをすることになっていた。しかし今日は2人きりで会うのではなく、結婚相談所の担当者も加えた3人で会うことになっている。最初の顔合わせはそのようにする決まりなのだ。

 

「田川さん、か・・・」結婚相談所の佐藤さんからは、相手の名字だけは聞かせてもらっていた。

 

 約束の時間より早く着きすぎてしまったので、私はラウンジのソファに座り、プロフィール写真をスマートフォンの画面で再び眺めながら小さく呟いた。写真の印象と実物の印象が全然違う場合もあるから、どんな人なのかは会ってみないと分からないな・・・なんてことを考えながら。それから15分くらい経っただろうか。結婚相談所の佐藤さんと、田川さんと思われる細身の男性がこちらへ向かって歩いてきた。

 

 「初めまして、田川賢司です。本日はどうぞよろしくお願い致します。」彼はそう告げ、丁寧に深々とお辞儀をしたので私も慌てて「宮下敬子です。こちらこそ、よろしくお願いします」と同じく深くお辞儀をした。

 

 「まぁまぁ、もう少し肩の力を抜いて良いですからね!」

佐藤さんがそう言って雰囲気を和ませてくれたので、私はその彼と目を合わせて少し笑った。写真では堅そうに見えたけど、笑うと目尻にシワができる、思っていたより優しい雰囲気の人だ。簡単な引き合わせをしてもらった後、佐藤さんは「それでは、ごゆっくり」という言葉を残して帰っていった。

 

 私達は、ラウンジでお茶を飲みながら、お互いのプロフィールに書いてあった内容を思いだし、趣味や普段の仕事についての話をした。彼は私の拙い話にも「うん、うん。それで!」と興味を持って聞いてくれ、とても嬉しかった。彼は今までに相談所を通じて接してきた男性の中で一番話しやすく、自分らしい受け答えができる相手のような気がした。特別会話上手でも、盛り上げ上手という訳でも無いのだが、なぜか彼の前ではあまり緊張せず自然体で話すことができたのである。

 

 

 ホテルのラウンジで初めて顔を合わせてから数日後、僕は宮下敬子さんと2人きりで会う約束を取り付けることができた。初めてのデートというやつだ。結婚相談所で出会った女性とデートをするのはこれが2回目、今回はスムーズにいくといいのだが…。彼女とは水族館でデートをすることになっている。水族館なんて何年振りだろうか。中学生?もしかすると小学生の時以来かもしれないな。どういう振る舞いをすればいいのだろうか。上手くエスコートできるだろうか。そんなことを悶々と考えながらお土産コーナーのイルカグッズなどを見ていると、

 

 「田川さん!」と呼ばれ、肩をポンポンと叩かれた。

敬子さんだ。後ろを振り返ると先日会ったときとはまた印象の違う、紺地に黄色い小花柄のワンピースを着た彼女が控えめに微笑んでいた。

 

 照明の暗いひんやりとした館内を歩いていくと、カクレクマノミなどの小さな熱帯魚が泳いでいる水槽が幾つも連なっており、彼女はそれを1つ1つ興味ありげに覗いている。その横顔をそっと覗いてみると、子供のように無邪気でキラキラした瞳をしていた。そしてたまにパッと笑顔を見せて、「田川さん、見てください!とても可愛いですよ!」と嬉しそうに僕に言う。

 

 「あぁ、なんて可愛らしい人なんだろう。」僕は、単純にそう思った。

 

─ 第2章 第3節 ─