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ある二人の婚活物語(STORY)。─ 第2章 第4節 ─

 

 ───最初のデートである今日は田川さんの方から「水族館へ行きませんか?」と誘われ、地下鉄の終着駅に直結している、市内で有名な水族館へ行くことになっている。

 

 水族館なんて一体何年振りだろう?随分久しぶりなのでワクワクする。とても楽しみだ。というのも、私は動物園よりは断然水族館派なのだ。田川さんも同じだったら良いなぁ。無意識にそんなことを思ってしまうので、私はあの顔合わせの日以来、彼にとても良い印象を抱いているみたいだ。

 

 約束の時間の5分前に水族館に到着すると、入り口付近にあるお土産ショップでぼーっとしている田川さんを見つけたので、声を掛けることにした。男性が1人きりでイルカのぬいぐるみを見つめている光景は何だか面白くてクスッと笑いそうになってしまう。

 

 「田川さん、お待たせしました。待ちましたか?」いきなり肩を軽く叩いてしまったせいか、田川さんは一瞬ビクッと動き少し驚いたような表情でこちらを振り返った。「あ、宮下さん!こんにちは!全然、僕も今着いたところですよ」「驚かせてしまってすみません。今日はお誘いいただきありがとうございます。」「いえいえ、こちらこそ。来てくれてありがとうございます。」お互い律儀に今日のお礼を伝え合ってから、私達は早速館内をみてまわることにした。

 

 薄暗い熱帯魚の水槽ゾーンを抜けると、この水族館のメインである大きな海中トンネルが現れた。その中では色とりどりの沢山の魚たちが360°自由に行き来することができるようになっている。背びれをなびかせ、ゆらゆらと泳ぐ魚の姿はとても綺麗で、キラキラとしたその光景につい夢中になってしまったが、ふと我にかえると田川さんとあまり会話をしていないことに気が付いた。せっかくこうしてデートをしているのだから、何か話をしなければと思い私なりに会話を広げる努力をしてみる。「見てくださいこの魚、顔が笑っているみたいで可愛いですね!」そう言って田川さんの方を振り返ると、穏やかな顔でこちらを見ていたので思わずドキっとしてしまった。やっぱり、優しい表情をする人なんだな・・・。

 

 一通り水槽を見て歩いたので、私たちは少し休憩をすることにした。すみにある休憩スペースに着くと、田川さんが自販機で缶コーヒーを買ってくれた。隣のテーブルには小さい子供を連れた家族が楽しそうに水族館での出来事を話している。私も将来は、こんな幸せな家庭が築けたらいいなぁ。という想いが自然と湧き出てくる。最近では街を歩く家族連れを見かけるたびにそんなことを思う。小さい頃から将来家庭を持つことは漠然とした夢だったが、この年齢になると一気にリアルな問題となり降り掛かってくる。

 

 「宮下さんは、将来は子供とか欲しいですか?」唐突に、田川さんからそんな質問が飛び出してきた。「え!そうですねぇ・・・。えーっと・・・。」奥手そうな田川さんからそんな質問が出てくることが意外だったので、私がすぐに答えられないでいると今までの穏やかな表情から一変し、彼はちょっと慌てたような顔をした。

 

 ─── うわー、僕はなんて質問をしてしまったんだ!宮下さんが返答に困っているじゃないか。

結婚相談所で出会い、お互い結婚を意識して接しているというのに、よりによって初めてのデートで子供について聞くなんて失礼なやつだと思われただろうか。幸せそうな家族を見ていたら、つい口が滑ってしまった。次に何を話したら良いのか分からず、口ごもって俯き加減になっていると、

 

「そうですね、2人くらいは欲しいかなーって思いますね。」宮下さんは意外にすんなりとそう答えてくれた。

「私は一人っ子なので・・・もし自分の子どもが生まれたら、兄弟がいたら楽しいんじゃないかなって思うんですよ。」

それからはお互いの家族についての話をした。初めて宮下さんの家族についての話を沢山聞くことができたので、子どもに関する質問をして結果的によかったと僕は思った。

 

 

─ 第2章 第4節 ─