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ある二人の婚活物語(STORY)。─ 第3章 第3節 ─

 

 ───男の人を自分からデートに誘うのは私の人生で初めてのことだった。音信不通だった田川さんと久々に連絡が取れたことが嬉しくて、気がついたらメールを送信してしまっていた。何の脈略も無かったので、病み上がりの彼を驚かせてしまっただろうか。

 

 ドキドキしながら返信を待っていると、「良いですね!行きましょう!食事の店は僕が決めても良いですか?」と返信が届いた。あぁ、快く承諾してくれてよかった。お店には詳しくないので食事の場所を決めてもらえるのは助かる。女性に対して絶妙な気遣いができる彼は素敵だな、と思う。

 

 約束の日。地下鉄に乗り遅れてしまい、お店に到着するのが時間ギリギリになってしまった。店の雰囲気同様、洗練された印象の男性店員に案内されて席へ向かうと、既に田川さんが座っており、開口1番に私の服装を褒めてくれた。男性からそんな風に褒められたのもとても久し振りだったので、急に恥ずかしくなってしまう。

 

 コース料理が続々とテーブルに運ばれてくる。私達は食事をしながら会話を楽しんだ。田川さんと会話をしていると全く話題が尽きないことに驚く。目の前に現れる料理のこと、仕事のこと、最近観た映画の話など。話をしているととても楽しいし、落ち着く。そして彼は、私の知らないこともよく教えてくれる人だ。

 

 もし今後2人で過ごしていくことになった場合、田川さんとなら自然に良い関係を築いていけるような予感がした。結婚相談所に足を運んでから他の男性と会う機会も何度かあったが、何だか居心地が悪いような気がして先に進めなかった。長い人生を共に過ごす伴侶は「居心地が良い」と感じる人を選ぶといいよと誰かも言っていたような・・・。

 

 田川さんとの何でもない会話の合間に、そんなことを考えていたら彼が「よかったら結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか。」と真剣なまなざしでそう言った。

 

 嬉しい。久しぶりの感覚に一瞬いろんな感情が入り混じったが、素直にそう思った。私も全く同じ気持ちだったのだ。呼吸を整え、少し戸惑いながらも絞り出すように言葉を紡ぎながら、私は微笑んだ。

 

「私でよければ、喜んで。よろしくお願いします。」

 

─ 第3章 第3節 ─