· 

ある二人の婚活物語(STORY)。─ 第3章 第4節 ─

 

 キラキラと輝くイルミネーション。どこからか流れ込んでくる聞き覚えのあるメロディ。ゆったりと静かに降り続く雪が、街を白く染めていた。カップルや家族連れで賑わう公園では、立派な白髭を蓄えたサンタクロースが子どもたちにカラフルなバルーンを配っている。

 

───田川さんからの告白を受け、数ヶ月の月日が経った。私たちは順調に交際を続け、お互いを賢司くん、敬ちゃんと呼び合う仲になっていた。恋人と過ごすクリスマスなんていつぶりだろう。陽気なメロディのせいか、目に映る美しい雪景色とイルミネーションのせいか、私はいつになく浮き足立っていた。

 

「敬ちゃん、敬ちゃん!」横から聞き慣れた声で名前を呼ばれ、ふと我に返る。「だいぶ冷えてきたね。そろそろお店に向かおうか。」そう言うと賢司くんは冷えた私の手を引き、まだ人々で賑わっている公園を後にした。

 

 ───いよいよ、今日だ。僕は冷えた敬ちゃんの手を引きながら、これから起こる人生の一大イベントに胸を高鳴らせていた。

僕は今日のこの日のためにクローゼットの奥に眠っていたスーツをクリーニングに出し、イギリスの人気メーカーの革靴を新調、ディナーは市内でも有名な夜景が見える高層ホテルのレストランを予約していた。ポケットには小さな箱が一つ。1ヶ月ほど前からジュエリーショップに足を運び、僕の数ヶ月分の給料をつぎ込んだ婚約指輪だ。

 

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

 

エレベーターで最上階まで向かい、扉が開くとお洒落な店内をバックに数名のホテルマンが出迎えてくれた。こういうホテルでの食事が慣れていない僕は内心ドキドキしながらも、背筋が伸びる思いで席に着いた。「すごい綺麗・・・素敵なお店だね。」夜景を眺めながら、うっとりした表情で敬ちゃんが言う。よかった、喜んでもらえたみたいだ・・・。僕はほっと胸を撫で下ろした。

 

 いつものように「美味しいね」と笑い合い、途切れることなく会話を続ける僕たち。コース最後のデザートを食べ終わったところで、ようやく僕は切り出した。

 

「敬ちゃん。僕と・・・結婚してください。」

 

 緊張で少し汗ばんだ手で、ポケットから小さな箱を取り出し敬ちゃんの前に差し出した。中からはキラリとしたダイアの指輪が顔を出している。プロポーズの言葉はストレートにと僕の中で決めていたのだが、声が少し上ずってしまった。こんな時でも僕は格好がつかないのか・・・と自分を卑下しながらも、彼女の返事を待った。恐る恐る顔を上げると、敬ちゃんの目が潤んでいるように見えた。敬ちゃんは小さくうなずいて「はい」と微笑んだ。その一言で僕らは緊張が一気に解け、最初に出会った頃のように照れながら微笑みあったのだった。

 

─ 第3章 第4節 ─